『怖い間取り2』概要

この本の情報
『事故物件怪談 怖い間取り2』
著者:松原タニシ
発行:二見書房
初版:2020年7月31日
著者は「事故物件住みます芸人」の松原タニシさん。
著作『事故物件 怖い間取り』(シリーズ1作目)のヒットで「事故物件」というワードと共に怪談好き以外の方にも広く知られるようになり、2020年に亀梨和也主演で映画化もされました。
「事故物件」とは…「心理的瑕疵(しんりてきかし)のある物件」のこと。
特に以下のようなケースで事故物件となり、告知義務が発生するそう。
- 社会に大きな衝撃を与えた事故や事件があった場合
- 自殺・他殺・火災など、自然死・日常事故以外の死亡事案
- 特殊清掃が必要だった場合(遺体の腐敗や大量の血液など)
私はもともと「実話怪談」が好きで、その流れで松原タニシさんのyoutubeやMBSラジオ『恐味津々』も視聴しておりました。
『怖い間取り』シリーズ他著作は累計40万部超えらしく、2025/6/17には『恐い間取り4全国編』が新たに発売されるそうです!今回ご紹介するのはそのシリーズ2作目。今回はがっつり書評というより、本を読みながら頭に浮かんできたことをゆるく記していきたいと思います。
本の構成
まずは本の構成から。
構成は三部構成になっていて、
第1章 僕と事故物件ータニシさんが1作目以降に住んだ事故物件のレポート
第2章 誰かの事故物件ータニシさんが事故物件に関わる人に取材した内容をまとめた生々しい証言の数々。
第3章 事故物件の旅ータニシさんが取材した各地の「事故物件」と、それにまつわるエピソード
多角的に事故物件にまつわるエピソードを楽しめるようになっていました。全エピソード間取りつき。
ちなみに、第1章と第2章の間に、タニシさんが気になったけど住むには至らなかった「事故物件間取りギャラリー」が一部紹介されていました。

事故物件公示サイト「大島てる」で有名だった「スカトロプレイの部屋」ってマジだったんだ…
全体を通した所感
松原タニシさんって、顔認証されなかったり、多少の(?)怪異は体験しつつも、実際「幽霊らしきものを見たことがない」って仰っていた記憶があった。「事故物件」も怖がりながら住む、というより何か「不可解な現象」に遭遇したとしても、怪異「かもしれない」よね、とただ淡々と受け流し、過ごしているイメージがあった。
でもそれって元からじゃなくて、事故物件に住むようになっていろいろ経験し「慣れて」いって、それにともない死生観とか、「事故物件」に対する考え方が変わっていった結果なんだなーってはじめて知った。
あと、びっくりしたのはタニシさん自身が幽霊らしきものをみていたり、自身の変化を自覚していなくても、周りの人がタニシさん自身の異変を目撃していること。
タニシさん自身が自覚していなくても、周りの複数の人が同じ異変に気づいているのはもう立派な怪異では…
しかもあの村田らむさんまでタニシさんの異変を目撃しているなんて…自覚なく自身が「怪異になる」可能性を考えて恐怖でした。



「事故物件に住む前のタニシさん」と、今の「事故物件を渡り歩くタニシさん」はもう別の存在になってしまっているのでは…?って思っちゃいました。
個人的に1番おもしろかったのは著者が実際住んだ事故物件にまつわる話ではなく、第3章の「事故物件の旅」。
この章は現地をGoogleMapで調べながら読みました。
で、特に興味深かったのが
- 鎌原観音堂
- ホテル七洋園
の話。
鎌原観音堂は、
1783年(天明3年)7月8日(旧暦)、火口より北側約12kmにある鎌原村は、浅間山の大噴火(いわゆる天明大噴火)による土石流[注釈 1]に襲われ壊滅。このとき鎌原村の村外にいた者や、土石流に気付いて階段を上り観音堂まで避難できた者、合計93名のみが助かった。この災害では、当時の村の人口570名のうち、477名の命が失われた[1]。
wikipediaより引用
らしく、「日本のポンペイ」と呼ばれているらしい。
常連のヘアサロンでこの場所にまつわる「ほんまやったらすごい話」を聞いたタニシさんが、その真相をたしかめるべく現地に赴き、その土地に昔から住んでいる人から実際に話を聞いたり、資料館を訪れたりして「真相」とその周辺を深ぼっていく過程がおもしろかった。民俗学のフィールド調査みたい。あと、もともとの発端になった「ほんまやったらすごい話」が印象深くて、好き。『地獄先生ぬ〜べ〜』で、発掘された化石が生き返ったみたいなエピソードがあったと記憶しているんですけど、それを思い出した。
ホテル七洋園は、2017年まで和歌山奥和歌浦の雑賀崎に営業していた「ほぼ廃墟」のようなホテル。いつからか分からないが、ほぼオーナーの「おじさん」一人で営業していたらしく、ネットで調べたホテルの口コミはひどいものだった(「おじさん」は口コミで1番みかけた表現なので拝借しています。タニシさんは「ご主人」と表現されています)。
タニシさんは偶然にもそのホテルのオーナーが病気で亡くなる直前に、そのホテルで開催されたオールナイト怪談フェスに参加していたらしく、その時のエピソードが強烈だった。読んでほしいので詳細はここに書かないが、「おじさん」の人格や背景含めたいろいろに、思いを馳せてしまう。
以下ホテル予約サイトでかつて営業していた際の口コミが印象深かったものを引用する。
夕方七洋園の前を通ると以前と同じく廃館状態で、地元の方に聞くとご主人は病気で亡くなられたとのことです。
夜前を通ると小さな七洋園の看板の灯りが点いていました。 地元の方も営業しているかどうかわからないと…電話して確認する勇気もありませんでした。
https://www.tripadvisor.jp/Hotel_Review-g298204-d1064256-Reviews-Shichiyoen-Wakayama_Wakayama_Prefecture_Kinki.html
本に記載の通り、「おじさん」は2017年10月頃お亡くなりになっている。この口コミは2018年のものである。
ちなみに、ホテルは2024年に火事で地下1階から3階まで全焼したようである。
↓参考にさせていただいた記事です。
ほんとうに怖いのは…「 」
個人的に最も残酷で身につまされたエピソード「全滅旅館」から引用してレビューを締めよう。
何かが起きて欲しかった。
『事故物件怪談 怖い間取り2』p303より引用
(中略)
しかし朝が来るまで轟々と風の音が響くだけで、何も起きず、何も見つからなかった。
何かのせいにできた方がどれだけ楽だったろう。残念ながら、これだけの不幸があってもおそらく何かのせいではない。
古来、人は幽霊や妖怪の仕業とすることで耐え難い運命をごまかしてきた。最も恐ろしいことは、何のせいにもできないことではないだろうか。
『怖い間取り2』には、土地の歴史や因縁だったりかつてそこに暮らしていた人の「何か」が原因かもしれないエピソードが多く語られる。
ここでのタニシさんは、一族が不幸に見舞れ続けたなんらかの要因を、一晩泊まってみても、見つけられなかった。あれだけ凄惨な事件があったのに。
たしかに、「祟り」とか、「土地が悪いからだ」「一族が呪われている」から、とか、外部に原因を求められた方が救いがある。不幸の原因を、「自分自身」と「自分自身の行動」あるいは「行動しなかったこと」の結果だと直視しなければならない時、底なしの絶望がある気がして、怖い。
そしてその感覚は、今現在の私からそう離れたところにない気がして、背筋が寒くなった。
おまけ:事故物件「告知義務」の現在
令和3年10月(2021年10月)、不動産取引における告知義務のガイドラインが制定されました(『怖い間取り2』は2020年刊行)そこで「心理的瑕疵のある物件」の「告知義務」に関する範囲と期間がはっきり定められたそうですので、2025年現在の状況について簡単にまとめました 🏠
- 告知義務の原則期間は概ね3年。事故が発生してから3年経つと、法律上は告知義務が消滅する。
- ただし以下の場合は、3年経過後でも告知が必要と判断される場合あり。
- 大きく報道された事件や殺人事故など
- 近隣住民の記憶に強く残るような印象的な出来事
- 入居希望者から質問があった場合
告知義務に期限なし(一生続く)。
重要な事案が過去にあったことが判明すれば、裁判でも「瑕疵」と判断され、契約解除や損害賠償が認められるケースあり。
- 「一人住めば告知義務がなくなる」という噂は本当?
-
ガイドライン制定前だったら一部悪質なところがやっていたかもね、程度。今現在に関してだけ言うなら、告知義務は期間や内容を基準に判断するため、間に1人住もうが2人住もうが3年以内なら告知義務は消滅しない。
- でも賃貸の場合3年経てば告知義務ってなくなるんでしょ?
-
トラブルを避けるために3年過ぎたあとも告知する会社がほとんど。もし心配なら借主が尋ねれば正直に伝えざるをえない。(誠実に事実に沿って答えなければ争ったとき不利になるため)



実際私も告知義務のガイドライン制定以降引越しする機会があったのですが、不動産会社さんに尋ねた際も「3年経過後もトラブル回避のため事故物件かどうかは告知する」と仰っていました。
Zennichi/さいたま支部:「心理的瑕疵物件どこまで告知義務がある?新ガイドラインをわかりやすく解説」
https://saitama.zennichi.or.jp/column/stigmatized-property/ lotushome.jp+15saitama.zennichi.or.jp+15chintai.net+15
Homes.co.jp:「心理的瑕疵ガイドラインが公表。事故物件や告知義務はどう変わる?」
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_00948/ homes.co.jp
Needs‑P:「【詳細解説】『人の死』が生じた事故物件の告知義務と…」
https://www.needs-p.jp/accident-property-guideline/ mlit.go.jp+15needs-p.jp+15albalink.co.jp+15
おまけのおまけ
松原タニシさんが語るエピソードで、個人的に好きなものをyoutubeからピックアップしました
有隣堂さんとのコラボ動画で1番目に話されている、「エロ本お父さん」のエピソードは『怖い間取り2』に掲載されいてます。その後ご遺骨と旅してたんですね。
遺体が風化してできた土でカイワレを育てたそうですが、土の栄養成分の関係か市販のものより辛みが強かったらしいです。
栄養いっぱい!

