よかった点
邦画にありがちな安っぽさは背景美術とかではなかったです。
とくにキーアイテムの「人形」はしっかり作られていて、おそらく要所要所で人形のお顔の造形も変えているんじゃないかなと思います。質感が安っぽいと観る方にも伝わって説得力がなくなってしまうと思うので、重要なアイテムや配する俳優さんなど、お金をかけるべきところにちゃんとお金をかけている感じが好印象でした。
人形に関しては、髪が伸びるとか、歯が生えている 爪が生えている など伏線として機能しつつも、お約束な気持ち悪さを演出していてよかったです。「気持ち悪さ」がちゃんと「気持ち悪い」というか。
とくに真衣ちゃんが産まれて人形の異変が顕在化していくあたりの「人形」の造形が、実際の「死体」を人形にしたような(事実そうであったのですが)不気味さが感じられてよかったです。
(閲覧注意)
https://sputniknews.jp/20181030/5520561.html
主演の長澤まさみさんの演技も真に迫っていました。映画館で観たから余計、洗濯機の中で自分の子供を「見つけてしまった」時の佳恵の叫びが、胸にきました。というかこの冒頭の、ささいな日常の出来事のなかで、いきなり「自分の大切な存在を失くしてしまう」シーンが観ていて1番怖くて、キツかったかな。(ごめんなさい)
そこから次女の真衣が生まれて、佳恵はだんだん長女の喪失から立ち直っていくんですけど、そういった日常が「人形」の存在で脅かされていく/崩壊していく描写は怖かったです。人形と錯覚して自分の娘を殴り殺す白昼夢をみる、とかそういった描写がいいんです。ちゃんと怖いし、「厭」です。
ただ、私が「怖い」と感じたのはそこまででした。
個人的に気になったところ
個人的に1番気になったことは、「原因追及のパートが長すぎる」ということです。
たとえば映画『リング』でも、そういった呪いから逃れる可能性を求めて原因となった地に赴く、といった描写がありました。そういったパートも「死の期限」が迫っているのと、貞子のミステリアスな存在感とあいまって緊張感をもったまま楽しんで観れました。
しかし『ドールハウス』では、そういった緊張感もないまま、漠然と「人形の脅威から逃れたい」と動くだけでなんのおもしろみもなく、謎も気にならない分、ひたすら長く退屈に感じました。
恐怖と笑いは紙一重
そうして映画が後半になっていけばいくほど、「人形の脅威」が現実離れし、暴走してきます。
私はこうなると、もうホラーというより、笑いになってきます。
私は、
人の強い想いが死してなお残っている「かもしれない」
現実のどこかで起こり得る「かもしれない」
と思える恐怖が好きなのだ、と自覚しました。
自分が生きる現実と地続きで初めて「怖がれる」というか。
怪異が現実に「起こり得ない」レベルに大げさになるともうそれは、「恐怖」の対象ではなく、「笑い」になります。あくまで私の場合ですが。
あとは、ホラー/オカルト好きの人へのサービスシーン的な、オマージュをいくつか感じられましたが、それが「恐怖」に貢献しなかったところが残念でした。あくまでサービスですかね。おもしろがるための。
う〜ん、繰り返しになってしまいますが、原因追及して怪異の正体や因果を完全に日のもとに晒してしまうのは、興醒めです。ホラーの美学とは対極というか、うーん。しかしこれは私の勝手な言い分に過ぎません。こうだからこう、と因果がはっきりした方がいいという方ももちろん多いでしょう。
ラストも、「助かりましたー」からのやっぱ「助かってませんでした」の流れ、様式美としてはアリなんだけど、今回の場合は取ってつけたような感じで決まってなかった。ただ、予定調和に向かって突っ切っただけというか。
う〜ん、そういった意味ではホラーの定石をいく映画で、お上品にまとまっていてよかったかもしれません。
まとめ【この映画はこんな人におすすめです】
- 正体がはっきりとわからない
- ひたひたと背後から迫ってくるような恐怖
- 現実のどこかで起こりうるかもしれない恐怖
というようなホラーが好きな人には向かないかもしれません。
ただ、最近の派手な洋画ホラーとかが好きな人は好きかも。現実に実体をもって襲ってきてくれるので、パニック映画というか、「わかりやすい」ホラーが好きな人にもおすすめです。
いろいろ書きましたが、決して「怖くない/つまらない」映画ではないと思いますので、気になった方はこの夏、涼を感じに観にいくのもアリではないでしょうか。